廃石膏ボードの品目は「がれき類」、「ガラスくず等」のいずれか?

「解体工事現場で発生した廃石膏ボードの品目は何になるのか」という処理業者からの質問を受けました。工作物の新築や改築等、すなわち建設現場から発生したコンクリートくずの品目は「がれき類」です。なので、少なくとも条文を素直に読む限り、建設現場から発生した廃石膏ボードは「がれき類」になりそうな気がします。一方、「ガラスくず、コンクリートくず及び陶磁器くず」として処理されているという実務上の運用も聞きます。処理業者の「どっちが正しいの?」という疑問は、法律と実務の運用の狭間での迷いから生まれたものです。これに関して私なりに調べてみたところ、なかなか面白い結論にたどり着きました。なお、処理業者の管轄する都道府県に電話で確認をしたところ「がれき類」という回答でした。ところが、過去に同じ都道府県の別の担当者に確認をしたところ「ガラスくず、コンクリートくず及び陶磁器くず」という回答だったようで、担当者レベルで回答が異なるという困った事態のようです。

まず、産業廃棄物の定義規定を見てみましょう。廃棄物処理法施行令2条を抜粋してみます。

第二条 法第二条第四項第一号の政令で定める廃棄物は、次のとおりとする。

七 ガラスくず、コンクリートくず(工作物の新築、改築又は除去に伴つて生じたものを除く。)及び陶磁器くず

九 工作物の新築、改築又は除去に伴つて生じたコンクリートの破片その他これに類する不要物

2条の7号が「ガラスくず、コンクリートくず及び陶磁器くず」を、9号が「がれき類」を規定した条文です。どちらも「コンクリート」という言葉があげられています。この2つの「コンクリート」の違いはなんでしょうか。

7号のコンクリートくずは、直後の括弧書きで「工作物の新築、改築又は除去に伴つて生じたものを除く」という文言が含まれています。一方、9号のコンクリートはその直前に「工作物の新築、改築又は除去に伴つて生じた」という限定がされています。つまり、「工作物の新築、改築又は除去に伴つて生じた」コンクリートは「がれき類」、それ以外の事業活動に伴って生じた廃棄物は「ガラスくず、コンクリートくず及び陶磁器くず」という取り扱いになります。コンクリートというと普通は鉄筋コンクリートや鉄骨造の建築物の解体工事から生じるイメージでしょうが、たとえば「物干し台の土台」や「金庫の中の耐火煉瓦」などが廃棄物になるときには、建設工事とは無関係に生じるコンクリートですので、品目は「ガラスくず、コンクリートくず及び陶磁器くず」ということです。なお、コンクリートとアスファルトは別物ですが、アスファルトもコンクリートとして取り扱っていますので、道路の舗装工事から発生したアスファルトは「がれき類」、工場から発生したアスファルト合材の切れ端は「ガラスくず、コンクリートくず及び陶磁器くず」ということになります。

この理解は非常にシンプルで、わかりやすいものです。この考え方によると、解体工事から生じる廃石膏ボードは「がれき類」ということになりそうです。ところが、「国は廃石膏ボードを「ガラスくず、コンクリートくず及び陶磁器くず」と考えている」という自治体による見解を示した文書が公開されているのです。

それが、平成25年3月27日付の三重県が出したとされる「排出事業者の皆さまへ」という文書です。平成25年4月1日から「廃石膏ボード」の廃棄物区分が変更されます。三重県産業廃棄物協会のWEBサイト(https://www.mie-sanpai.or.jp/news25/index4.4.html)に載っていましたので、この文書を引用します。

1 「廃石膏ボード」の廃棄物区分を見直します。

 当県では、従来、製造工程から排出される「廃石膏ボード」については「ガラスくず、コンクリートくず(工作物の新築、改築、又は除去に伴って生じたものを除く。)及び陶磁器くず。(以下「ガラスくず等」という。)」、工作物の新築、改築又は除去に伴って生じたものは「がれき類」として取り扱いをしてまいりましたが、「建設廃棄物処理指針(平成22年度版)」等に示されているように、国は、「廃石膏ボード」の区分を「ガラスくず等」として取り扱っていることから、平成25年4月1日以降、これに準じて排出過程に関係なく「廃石膏ボード」を「ガラスくず等」として取り扱うよう廃棄物区分を見直します。

この文章は、なかなか衝撃的なことを書いています。これまで「がれき類」だった廃石膏ボードが、ある日を境に「ガラスくず、コンクリートくず及び陶磁器くず」になると言っているわけです。法改正により廃棄物の品目が変更になったというわけではなく、法令の解釈の変更に伴って変更になったということなのです。この場合、法令の解釈を変更したのは国ではなく三重県ということになります。このような解釈の変更は、法的安定性を害するもので、普通は起きるものではありません。なにか特別な事情があったのだろうと想定されます。

三重県が廃石膏ボードを「がれき類」から「ガラスくず、コンクリートくず及び陶磁器くず」に変更する以前に、他の都道府県や政令市でこのような解釈の変更が行われたことがあるかどうかまでは確認できませんでした。事情をご存じの方がいれば教えていただきたいところです。三重県は、文書の中で「国は、「廃石膏ボード」の区分を「ガラスくず等」として取り扱っている」と述べていますので、解釈の変更の最大の要因は「建設廃棄物処理指針(平成22年度版)」と考えられます。「建設廃棄物処理指針(平成22年度版)」の中で「廃石膏ボード」の文言の登場回数は2回です。それぞれ抜き出してみます。

①1回目

「安定型産業廃棄物」とは、産業廃棄物のうち安定型最終処分場に埋立処分できるものであり、廃プラスチック類(自動車等破砕物(自動車(原動機付自転車を含む。)若しくは電気機械器具又はこれらのものの一部の破砕に伴って生じたものをいう。以下同じ。)、廃プリント配線板(鉛を含むはんだが使用されているものに限る。以下同じ。)及び廃容器包装(固形状又は液状の物の容器又は包装であって不要物であるもの(有害物質又は有機性の物質が混入し、又は付着しないように分別して排出され、かつ、保管、収集、運搬又は処分の際にこれらの物質が混入し、又は付着したことがないものを除く。)をいう。以下同じ。)であるものを除く。)、ゴムくず、金属くず(自動車等破砕物、廃プリント配線板、鉛蓄電池の電極であって不要物であるもの、鉛製の管又は板であって不要物であるもの及び廃容器包装であるものを除く。)、ガラスくず、コンクリートくず(工作物の新築、改築又は除去に伴って生じたものを除く。)及び陶磁器くず(自動車等破砕物、廃ブラウン管(側面部に限る。以下同じ。)、廃石膏ボード及び廃容器包装であるものを除く。)並びに工作物の新築、改築又は除去に伴って生じたコンクリートの破片その他これに類する不要物(以下「がれき類」という。)並びにこれらの産業廃棄物に準ずるものとして環境大臣が指定する産業廃棄物をいう。

②2回目

「ガラスくず、コンクリートくず(工作物の新築、改築又は除去に伴って生じたものを除く。)及び陶磁器くず」とは、ガラスくず、耐火れんがくず、陶磁器くず等をいう。なお、自動車等破砕物、廃プリント配線板、廃容器包装、鉛蓄電池の電極であって不要物であるもの、鉛製の管又は板であって不要物であるもの、廃ブラウン管及び廃石膏ボードは安定型産業廃棄物から除外されているので留意すること。

この文章から、解体工事現場から発生する廃石膏ボードが「ガラスくず、コンクリートくず及び陶磁器くず」であることを読み取れたでしょうか。残念ながら、私には読み取れませんでした。廃石膏ボードが「ガラスくず、コンクリートくず及び陶磁器くず」の直後の括弧書きに入っているため、廃石膏ボードは「ガラスくず、コンクリートくず及び陶磁器くず」であるという読み方をすれば、この文言からそのように受け取れるという意味なのかもしれません。しかし、「ガラスくず、コンクリートくず及び陶磁器くず」の直後の括弧書きの廃石膏ボードは「ガラスくず、コンクリートくず及び陶磁器くず」である廃石膏ボード、すなわち「廃石膏ボードのうち工作物の新築、改築又は除去に伴って生じたものを除くもの」という読み方も成り立ちうるもので、「建設廃棄物処理指針(平成22年度版)」から一義的に全ての廃石膏ボードの品目を「ガラスくず、コンクリートくず及び陶磁器くず」であると国が考えている根拠にはならないように思えます。

しかし、「建設廃棄物処理指針(平成22年度版)」の2つの「廃石膏ボード」の文言は、廃棄物処理法施行令6条3号イ(4)がその出自です。この規定の趣旨は、安定型産業廃棄物からの廃石膏ボードの除外です。つまり、廃石膏ボードは安定型最終処分場に埋立してはならない、管理型最終処分場に埋立しなさい、ということです。実は、廃石膏ボードに関し、平成18年6月1日に環境省通知が出ています。その内容を抜粋したのが以下です。

廃石膏ボードから付着している紙を除去したものの取扱いについて(通知)

廃石膏ボードから付着している紙を取り除いたものについては、平成10年7月16日付け環水企第299号環境庁水質保全局長通知(以下「平成10年局長通知」という )により、安定型最終処分場に埋め立てることが可能であること。とされているところであるが、その後の新たな科学的知見により、紙を除去した後でも、これに含まれる糖類が硫化水素産生に寄与し、安定型最終処分場への埋立処分を行った場合、高濃度の硫化水素が発生するおそれがあることが明らかになったことから、廃石膏ボードから紙を除去したものについても、廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令(昭和46年政令第300号)第6条第1項第3号イ(4)の廃石膏ボードとして取り扱うこととしたので、下記事項に留意の上、その運用に遺漏のないようにされたい。

この通知以前は、「石膏ボードには紙が付着しているから安定型産業廃棄物でない」わけでした。ところが、埋立において環境問題が発生するのは紙だけではなく、石膏ボードそのものから硫化水素が発生することが、新たな科学的知見として明らかになりました。そこで、この通知以後は、「たとえ紙が付着していなかったとしても、石膏ボードは安定型産業廃棄物ではない」ということになります。これが通知の趣旨です。

通知に引用されている廃棄物処理法施行令6条3号イ(4)とは施行令2条7号に掲げる廃棄物のことで、すなわち「ガラスくず、コンクリートくず及び陶磁器くず」です。そうすると、以下の2つの解釈が導かれることになります。

①「がれき類」説

解体工事現場から発生した廃石膏ボードは「がれき類」なので、安定型最終処分場に埋め立てることが可能だが、工場から発生した廃石膏ボードは「ガラスくず、コンクリートくず及び陶磁器くず」なので安定型最終処分場に埋め立てることはできない。

②「ガラスくず、コンクリートくず及び陶磁器くず」説

解体工事現場から発生した廃石膏ボードも、工場から発生した廃石膏ボードもいずれも「ガラスくず、コンクリートくず及び陶磁器くず」なので、安定型最終処分場に埋め立てることはできない。

平成18年環境省通知による廃石膏ボードの安定型最終処分場への埋立禁止の趣旨は、「高濃度の硫化水素が発生するおそれ」でした。これは化学反応が原因であり、排出の形態(「工作物の新築、改築又は除去に伴つて生じた」かどうか)により硫化水素の危険性が上下するようなものではありません。おそらく廃石膏ボードの排出の大多数は建設工事現場であり、工事現場から発生する多量の廃石膏ボードを安定型最終処分場に埋め立てることを規制することなく、工場から発生する少量の廃石膏ボードを安定型最終処分場に埋め立てることを規制するという①「がれき類」説は、いかにも不合理です。このような法規制の仕組みから合目的的に解釈すると、②「ガラスくず、コンクリートくず及び陶磁器くず」説に分がありそうに思えます。最初に「がれき類」説から「ガラスくず、コンクリートくず及び陶磁器くず」説に解釈を変更したのが三重県かどうかまでは確認できませんでしたが、そのような解釈の変更が建設工事から発生した廃石膏ボードの安定型処分場への埋立を禁止する趣旨だったことは間違いないと思います。

しかし、三重県も平成25年の文書を出すまでは廃石膏ボードを「がれき類」として取り扱っていたわけで、条文を文理解釈すれば、廃石膏ボードを「がれき類」と読むことの方が自然なのではないかと思います。

「ガラスくず、コンクリートくず及び陶磁器くず」説は、廃石膏ボードを①ガラスくず、②コンクリートくず、③陶磁器くずのいずれかに該当するものと考える必要があります。この3つは限定列挙です。直感的には②コンクリートくずと言いたくなりますが、施行令2条9号括弧書きは、②コンクリートくずについては工作物の新築、改築又は除去に伴って生じたものを除きます。建設工事から発生したコンクリートくずは「がれき類」なのです。そうすると、廃石膏ボードは①ガラスくずか③陶磁器くずのいずれかに該当することになりますが、これはやや苦しい条文の解釈ではないでしょうか。「ガラスくず、コンクリートくず及び陶磁器くず」説は、合目的を優先しすぎたため、条文の文理上、大きな問題を抱えているように思います。

この条文の解釈の苦しさに、三重県も気づいているのではないかと私は感じています。三重県の「産業廃棄物処理の手引き(平成29年9月)」には、「ガラスくず、コンクリートくず及び陶磁器くず」を以下のように記載しているのです。

種類内容
ガラスくず等 (ガラスくず等、コンクリートくず及び陶磁器くず)①ガラスくず:廃空き瓶類、板ガラスくず、ガラス繊維くず等
②コンクリートくず:製品の製造過程等で生じるコンクリートくず等
③陶磁器くず:土器・陶器・磁器くず、耐火煉瓦くず等
④廃石膏ボード(平成 25 年 4 月 1 日以降)

廃石膏ボードは、①ガラスくず、②コンクリートくず、③陶磁器くずのいずれにも該当しない第4の類型として記載されているのです。繰り返しになりますが、施行令2条9号に定める「ガラスくず、コンクリートくず及び陶磁器くず」は限定列挙です。にもかかわらず、条文にない第4の類型を認めるということは、条文解釈としてはやはり破綻しているようにも思います。施行令が廃石膏ボードの括弧書きを「がれき類」に用意していたら、あるいは品目ではなく、廃石膏ボードとして安定型処分場への埋立を禁止していれば、このような混乱はなかったのではないかと考えています。

(河野)

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