産業廃棄物処理施設設置許可申請と環境アセスメントの関係性

先日、人前で話をする機会をいただき、「産業廃棄物処理施設設置許可申請と環境アセスメント」をテーマに講演しました。施設設置許可申請と環境アセスメントの関係性というのは、あまり議題に上らないテーマのように感じていますが、この両方に関わる者(私自身)としては、深く重要な結びつきがあると考えています。

産業廃棄物処理施設設置許可申請は主に行政書士の業務分野であり、環境アセスメントはコンサルタント会社や調査会社等が行う分野と認識されていますので、この2つが一般的には切り離されて理解されていることが多いようです。許認可申請を取り扱う行政書士は、環境アセスメントの視点を持つこと、逆に環境アセスメントを取り扱う事業者は許認可申請手続を理解することで、施設設置許可までの事業者と行政、そして第三者(近隣住民)とのコミュニケーションがより理解できるのではないか。そんなの思いでお話しさせていただきました。今回はその内容の一部を記事にしてみます。

環境アセスメントと一言で言っても、根拠法によってさまざまなアセスメントがあります。産業廃棄物処理施設設置では、やはり廃棄物処理法に基づく生活環境影響調査が最重要になってきますので、それを中心に施設設置許可申請との関係を解説してみます。

廃棄物処理施設設置許可申請には、多くの場合、条例または要綱により事前協議手続が定められています。実際のところ、本申請よりも事前協議の方が手続きの中心的地位を占めていると言っても、間違いではないと思います。そもそも、事前協議手続とはなんのために存在しているものなのでしょうか。

事業者にとっては、事前協議手続は設置許可申請の前段階に行政が設けた障害物(あるいは施設設置を阻む「砦」)のように映るかと思われます。少なくとも、事前協議は事業者にとっては積極的に望む手続きではないかと思います。一方、近隣住民にとっては、施設設置を反対するために用意された手続きという認識になるかもしれません。事業者と近隣住民は、どうしても利害が対立してしまうものです。なるべく大きな破砕機を設置したい事業者と、破砕機からの騒音を危惧する近隣住民。有害廃棄物を処理したい事業者と、土壌汚染や水質汚濁を恐れる住民。ここに対立構造が生じてしまうことは、産業廃棄物を処理する以上、必然ともいえます。

この対立構造は、施設設置後も遺恨として残る可能性もあります。たしかに、法令上は近隣住民側には反対による「事業の阻止権」のようなものはありません。しかし、近隣住民との関係性がよくないというのは長らく事業を続けていくうえでよい状態ではありません。そこで、事業者と近隣住民との対立を緩和させるために、産業廃棄物処理施設設置許可申請には事前協議という長期に及ぶ手続きを用意され、さらに廃棄物処理法の環境アセスメントである生活環境影響調査を求めているのです。

事業者にとっては、大変な負担であることには違いないのですが。そもそも、事前協議という手続きはいったい何を目指す手続きであるのかの理解が重要になります。ときどき、「住民の同意書をもらうための手続きだ」という方がいます。もちろん、全ての近隣住民の同意書をいただくことができれば、事業者としては好ましいことであろうかと思います。とはいえ、「同意を取り付ける」ということ自体は、産業廃棄物処理施設設置許可申請やその事前協議手続の本質的なところとは、やや外れているのではないかと私は考えています。

事業者としては、産業廃棄物処理施設を設置しようとするときに、なんらかの環境影響が及ぶことが考えられる地域の住民に、事業計画を説明する必要があると考えます。このような説明が全くない、または不十分なために、近隣住民は廃棄物処理施設の設置を反対するという面は否めません。近隣住民の施設設置反対の意見を出す方の中には、どんな施設ができるのかの情報をほとんど持たないまま反対している方もいます。このようにコミュニケーションが不足している状態では、事前協議を終了することは相当困難です。やはり、事業者はきちんと近隣住民に事業計画の説明をしたうえで、コミュニケーションの中で反対意見を含めて、住民側の意見を吸い上げる必要があると考えられます。

そして、事業計画とともにもう一つ、近隣住民への説明として欠かせないのが、環境影響についてです。環境影響とは、産業廃棄物処理施設の設置によって近隣住民の環境にどのような変化があるかということです。破砕機の稼働によって、騒音や振動が発生するかもしれない。煙突から出る排ガスで、洗濯物が汚れるかもしれない。大型ダンプが小学生の通学路である細い路地を通行するかもしれない。このような住民の不安に対して、事業者として実行可能な範囲で、環境影響の回避・低減がなされていることを示す必要があるのです。

環境影響は、施設が完成して営業を開始してから実測します、というわけにはいきません。施設設置前に、事前に調査・予測・評価をおこない、事業者の見解を近隣住民と共有する必要があるのです。この場が、通常は住民説明会であったり、戸別訪問であったりするわけです。

近隣住民の意見に対して、事業者は見解を出します。近隣住民側が誤解していることも当然ありますので、そこは事業者としての説明責任を果たします。また、近隣住民の主張に、もっともな点があれば、事業者は対応を迫られます。調査・予測・評価手法に問題があれば、それらをやりなおします。環境保全措置が不十分であれば、新たに防音壁を設置するなどの見直したうえで、再度の調査・予測・評価をおこないます。そもそも、事業計画そのものを見直すこともあるかもしれません。破砕機の処理能力を縮小したり、施設のレイアウトを変更したりすることになるかもしれません。

このようにして、産業廃棄物処理施設設置許可申請は、事業計画を許可へと「進むベクトル」と、環境影響や近隣住民の意見などを考慮しつつ、慎重に一旦は「戻るベクトル」の2つのベクトルの組み合わせによって成り立っています。このための手続きが事前協議手続であり、そのためのツールとして生活環境影響調査があるわけです。

私は、住民から「同意をもらう」、あるいは「同意をもらえばいい」という考え方には疑問を持っています。事業とは、他人の同意をもらってやるようなものではないからです。そうではなく、環境影響に対する環境保全措置を十分に検討することが大切で、それを問題点も含めて近隣住民との間で共有することが、産業廃棄物施設設置許可申請の核心ではないかと考えています。この手続きを、合意形成手続と呼んでいます

(河野)

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