生活環境影響調査を要する基準が産業廃棄物と一般廃棄物で異なることの合理性について

たとえば産業廃棄物の「木くず」と一般廃棄物のいわゆる木くずを、処理の時点で完全に見分けることは難しいものです。生木の場合、民家の庭に生えている木を切り倒せば一般廃棄物ですが、法面工事に伴い伐採された森林の木は産業廃棄物に該当することになり、処理の段階でどこで切られた木なのかを木から判断することは困難です。木造家屋の解体工事に伴って出てきたであろう廃材であれば、およそ産業廃棄物であるとの予想はできますが、廃棄物そのものを見て判断することは難しいのです。廃ペットボトルも、家庭から排出されれば一般廃棄物ですが、事業活動に伴って出たものは産業廃棄物の廃プラスチック類です。しかしどちらのペットボトルも全く同じ、ペットボトル飲料の廃容器であることに変わりはありません。

このように、全く同じものであるのに、廃棄物処理法の法体系が廃棄物を産業廃棄物と一般廃棄物に分断してしまったために、「この廃棄物は一般廃棄物なのか、それとも産業廃棄物なのか」の判断が非常に専門的になってしまうという問題が生じてしまいました。私もなぜこのような事態になってしまったのか、色々と文献を読んで今のところたどり着いたのは、廃棄物処理法が制定された1970年のごみ問題の逼迫性とその解決のための立法の緊急性にあったのではないかと考えています。廃棄物処理法は汚物掃除法の孫、清掃法の子という親子三代続く歴史のある法律なのですが、日本が高度経済成長の真っ只中において産み落とした負の側面、ごみ問題に対処するために政策的に制定された法律なのです。

今、私たちが見ているごみ問題と、高度経済成長の中に生じたごみ問題ではその内容はまるで別物であることは想像に難くありません。ところが、そのときに制定された廃棄物処理法の産業廃棄物と一般廃棄物という枠組みは、現在も残り続けています。これが現代の廃棄物処理の世界に歪みを少なからず残してしまったのではではないかと私は考えています。この枠組みに今も合理性があるのか、再検討され続けていくべき問題だと思います。この辺りは、廃棄物処理法2条について解説する機会に譲りますが、実は生活環境影響調査(廃棄物処理法に基づく環境アセスメント)においてもこの枠組みの歪みの煽りを受けているのではないかと私は感じています。

生活環境影響調査書は、廃棄物処理施設の設置許可申請の添付書類という位置づけです。つまり、施設設置許可が必要な施設であれば、アセスが必要。逆に施設設置許可が不要な施設であればアセスは不要ということになります。ここまでは非常に単純な話なのですが、ここから先、産業廃棄物と一般廃棄物を分類したことによる歪みが顕れてくることになるのです。

廃棄物が産業廃棄物と一般廃棄物に分けられることにより、廃棄物処理施設も、産業廃棄物処理施設と一般廃棄物処理施設に分類されます。そして、産業廃棄物と一般廃棄物では廃棄物処理法上の根拠条項が異なります。まずは、一般廃棄物処理施設の許可の根拠条項である8条1項と3項を見てみます。1項は許可について、3項はアセスについての規定です。

■廃棄物処理法8条1項

一般廃棄物処理施設(ごみ処理施設で政令で定めるもの(以下単に「ごみ処理施設」という。)、し尿処理施設(浄化槽法第二条第一号に規定する浄化槽を除く。以下同じ。)及び一般廃棄物の最終処分場で政令で定めるものをいう。以下同じ。)を設置しようとする者(第六条の二第一項の規定により一般廃棄物を処分するために一般廃棄物処理施設を設置しようとする市町村を除く。)は、当該一般廃棄物処理施設を設置しようとする地を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。

同条3項
前項の申請書には、環境省令で定めるところにより、当該一般廃棄物処理施設を設置することが周辺地域の生活環境に及ぼす影響についての調査の結果を記載した書類を添付しなければならない。ただし、当該申請書に記載した同項第二号から第七号までに掲げる事項が、過去になされた第一項の許可に係る当該事項と同一である場合その他の環境省令で定める場合は、この限りでない。

次に産業廃棄物処理施設の許可の根拠条項である15条1項と3項を見てみます。
1項は許可に関する規定で、3項はアセスに関する規定であることは一般廃棄物処理施設と変わりはありません。

■廃棄物処理法15条1項
産業廃棄物処理施設(廃プラスチック類処理施設、産業廃棄物の最終処分場その他の産業廃棄物の処理施設で政令で定めるものをいう。以下同じ。)を設置しようとする者は、当該産業廃棄物処理施設を設置しようとする地を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。

同条3項
前項の申請書には、環境省令で定めるところにより、当該産業廃棄物処理施設を設置することが周辺地域の生活環境に及ぼす影響についての調査の結果を記載した書類を添付しなければならない。ただし、当該申請書に記載した同項第二号から第七号までに掲げる事項が、過去になされた第一項の許可に係る当該事項と同一である場合その他の環境省令で定める場合は、この限りでない。

一般廃棄物処理施設についての8条も、産業廃棄物処理施設の15条も、どちらもそれぞれの3項で申請書の添付書類として生活環境影響調査書の添付を求められていることに関しては変わりません。では、一般廃棄物と産業廃棄物でアセスに差異が出てしまうのは、どの条項が原因であるのかを探ると、それはそれぞれの1項の規定の違いなのです。

一方、産業廃棄物処理施設について規定した廃棄物処理法15条1項も一般廃棄物処理施設と同様に、処理施設の具体的な定義を政令に委ねています。廃棄物処理法施行令7条には、廃棄物処理施設が列挙され、これらの施設を設置するには許可が必要であり、申請書には生活環境影響調査書を添付すること、となるわけです。

この施行令5条と7条の廃棄物処理施設の定義が一般廃棄物と産業廃棄物で大きく異なっているのです。廃棄物処理には様々なものがあり、その性質を決定する大まかな要素として①品目、②処理方法、③処理能力があると考えられます。

一般廃棄物処理施設の施行令5条では原則として③の処理能力のみを基準とし日量5tを超える施設を一般廃棄物処理施設として許可及びアセスの対象と取り扱っています。一方の産業廃棄物処理施設の施行令7条では、原則①②③の全てを規定する形で産業廃棄物処理施設を類型化しています。これを単純に比較すると、産業廃棄物処理施設に比べて一般廃棄物処理施設の方がアセスをより求められることになる、ということになります。

これを分かりやすくするためにいくつかの架空事例を用意しました。

1 プラスチック類と木を処理できる日量4.8tの破砕機がある。プラスチック類と木は一般廃棄物であろうが産業廃棄物であろうが、施設設置許可は必要なく、アセスも不要である。
2 1の事例で処理能力が日量7.4tであれば、一般廃棄物、産業廃棄物いずれも施設設置許可とアセスが必要になる。
3 1の事例で品目が紙と繊維であれば、いずれも許可とアセスは不要になる。
4 3の事例で処理能力が日量7.4tであれば、一般廃棄物の許可とアセスは必要であるが、産業廃棄物の許可とアセスは不要である。
5 汚泥の脱水施設で処理能力が日量8t(比重1)であれば、一般廃棄物なら許可とアセスが必要であるが、産業廃棄物なら許可とアセスは不要である。
6 金属の切断・圧縮施設で日量100tであれば、一般廃棄物なら許可とアセスが必要であるが、産業廃棄物なら許可とアセスは不要である。

一般廃棄物処理と産業廃棄物処理で判断が分かれるのが、4~6の事例です。4~6を環境負荷の視点から、全て説得的に説明することは本当に可能でしょうか。

4は一般廃棄物処理なら日量5tを超えているという判断ですが、
産業廃棄物であれば紙くずの破砕施設、繊維くずの破砕施設ともに施行令7条に列挙されていないことが判断理由になります。

5は一般廃棄物なら比重換算により日量5tを超えているという判断ですが、
産業廃棄物であれば施行令7条1項の汚泥の脱水施設は日量10㎥で裾切されており該当しないことが判断理由になります。

6は一般廃棄物処理なら日量5tを超えているという判断ですが、
産業廃棄物であれば紙くずの破砕施設、繊維くずの破砕施設ともに施行令7条に列挙されていないことが判断理由になります。

このように、廃棄物処理法が産業廃棄物と一般廃棄物を分類したために、環境影響という本来考慮すべき要素を度外視したままにアセスが必要または不要と判断されることになっているということが、私が感じている歪みなのです。この差異を説得的に説明し正当化するためには、一般論として産業廃棄物の方が一般廃棄物よりも環境影響が大きいことを説明できなければならないと私は感じていますが、それは難しいように感じます。結論として、この制度自体に合理性はなく、廃棄物処理法が生んだ歪みであり、その原因は廃棄物処理法が誕生した時代の社会的背景にあるというのが今の私の見立てです。

河野雅好

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