廃棄物処理施設設置許可申請の事前協議手続の法的根拠について

行政手続の構造の本質は、許認可を必要とする事業者が行政庁に許可申請を行ない、それに対して行政庁が法令に基づいて審査を行ない、「許可」か「不許可」の応答をすることにあります。この許可申請は、通常は書面で行なうことになり、その書面を申請書と呼んでいます。これが一般論ですが、廃棄物処理施設設置に関する許可申請も、本質的なところは変わらず、許可を求める事業者が行政庁に対して申請書を提出することで許可申請を行ない、それに対して通常は許可という応答がなされるわけです。

ところが、現実はどうもそのような単純な形にはなっていないのが、廃棄物処理施設設置に関する許可申請です。施設設置許可申請に至る前に、事前計画書手続や事前協議書手続を求められている自治体が大多数です。事前計画書を出して半年、事前協議書を出して半年、施設設置許可申請書を出して半年、業許可申請書を出して半年と、トータル2年がかりで廃棄物処理業を事業として開始できるケースというのが一般的といえるわけです。

事前協議手続というのは、廃棄物処理法、施行令、施行規則の中には一切登場しません。では、どこかに規定があるかといえば、別のところにきちんと規定があるのです。これには2種類の規定方法があります。

Ⅰ 条例に基づく事前協議手続
Ⅱ 要綱に基づく事前協議手続

条例は地方公共団体が制定する議会制定法で、法令に含まれます。条例に定められた手続は事業者を拘束していますので、必ず事前協議手続(条例手続)を経た後に許可申請手続(法手続)へと移行しなければなりません。要綱からの格上げで、事前協議手続を条例で定める自治体は年々増えている印象です。

一方、要綱とは指導要綱等を指しています。これは、あくまでも行政庁の内部での行政指導の内容や指針を定めたものであり、事業者に対する拘束力はありません。組織法にその根拠があるもので、行政庁内部での上司から部下への命令のようなものと捉えるべきでしょう。行政庁の内部の職員は公務員ですから、多くの場合は要綱に従った行政指導を行ないます。公務員の職務として、要綱に従うのは当然です。

しかし、要綱では一般市民を規制できません。事業者は要綱や行政指導に従うか従わないかは自由に決めればよいのです。要綱による事前協議手続は、極論を言えば事業者が無視しても構いません。

条例は地方議会で制定されますし、要綱も自治体単位で定められます。ですので、事前協議手続の根拠が条例または要綱である以上、事前協議手続は申請先の自治体によって異なる地域差のあるものということになります。廃棄物処理施設設置の行政手続のフローを眺めても、A県とB県では全く異なるということが起ります。

これには、条例または要綱が影響していることが多いのです。

近年は事前協議手続を条例で定めることが多いと書きましたが、遡ると要綱もない時代があったようです。行政庁に許可申請書を提出しても、その申請書を正式に受理せず「仮に預かる」という名目で、インフォーマルな形で審査が行なわれていた実態があったわけです。行政庁としては、廃棄物処理法で求められる基準を全て満たしているかを申請書を仮に預かっている段階で審査して、全ての要件を満たしていることを確認できた段階で、申請書を正式に受理、そして遅滞なく許可を出していたわけです。

単純な行政手続であれば、許可申請書を提出して、書面上で要件を確認してすぐに許可を出すことも可能です。ところが、廃棄物処理になるとそう簡単には審査できません。申請に対して許可を出す率は、廃棄物処理ならば相当低くならざるをえない。そこで、このような方法を行政庁はとっていたのではないかと推測されます。ところが、この行政手続は大きな問題も抱えていたわけです。それが、行政庁が許可も不許可も出すことなく、申請書を仮に預かったまま放置するという問題です。特に、近隣住民の反対も起りやすい廃棄物処理の世界では、住民感情に配慮して行政庁が許可を出し渋ったということも推測できます。

そのような問題に対処するために、1994年に行政手続法が施行され、全国の自治体には行政手続条例が施行されました。これにより、受理概念を否定し、申請書類の「握り潰し」が明確に違法となりました。行政手続法、行政手続条例は、廃棄物処理の世界のみならず、例外を除く全ての行政手続に適用されるものですが、廃棄物処理の世界にとっては非常に大きな意味があったものと考えられます。

ところが、そうはいっても、複雑な廃棄物処理施設設置の許認可を、「申請」と「許可か不許可の応答」だけに割り切れるかと言えば、これは不可能と言わざるをえません。行政庁との緻密な協議なくして、廃棄物処理施設設置の許認可はありえないのが実情なのです。やはり、申請前にきちんと基準を満たすことを確認したい。そこで、条例や要綱で事前協議手続を規定することで、スムースな許認可を可能とするのが事前協議制度の趣旨なのです。

事前協議制度が条例や要綱に規定されていることのメリットは、事業者の側にもあります。かつての「申請書類の握り潰し」は、基準が極めて不明確なままになされる恣意的とも言われかねない行政指導に基づいて行なわれていました。この指導の基準が条例や要綱に明確に示されているというのは、事業者にとっては非常に助かることなのです。条例や要綱に明示された基準に従えばよく、逆にそれ以外の指導には従う義務がないわけですから、このような線引を事前にされていることは事業者には有利なのです。

では、事業者としては、条例と要綱で対応を変えるべきか。条例は従わなければなりませんが、要綱だから従わないという選択肢も事業者にはあるわけです。しかし私は、条例であろうが要綱であろうが、原則として全て従う方が事業開始に好影響を及ぼすと考えています。経験上、ここを争うと、無駄に時間だけが経過することになります。

とはいえ、例外的に要綱に基づく指導に従わないこともありえます。条例にも要綱にも大抵は似たようなことが書いていますが、要綱には条例には書けない「やや理不尽なこと」が書かれていることがあります。たとえば、「近隣住民の三分の二の同意書」等。条例には法的拘束力があるゆえに書けないことがあります。しかし要綱はそれを書いていることがあるのです。このようなものも、私は一旦はのみ込むことにしています。とはいえ、どうしても従うことができない要綱の規定がある場合には、従えない理由をきちんと行政の担当者に伝えるべきだと考えています。

ところで、事前協議手続には条例手続と要綱手続があると前述しましたが、実はもう一つの形態があるのです。一部の自治体では今でも「事前相談が煮詰まったら本申請」という取り扱いをしているところがあります。事前協議手続は、条例でも要綱でも定めていないけれど、いきなり申請書を持参されても受理できないということだそうです。この場合は、仮の申請書を持ってきたら仮に預かって、その状態で審査を進めるということだそうです。行政手続法制定から二十数年が経っても、未だにこのような取り扱いが残っているのです。

事前協議受理や事前協議終了は、銀行融資実務上、大きな意味を持っているようです。行政庁との相談が煮詰まっていく過程が徐々に明らかにされていくこの制度は、廃棄物処理の許認可の複雑さと行政手続法の公正さの中に生まれたものであって、それなりに実態に則したシステムではないかと思っています。

(河野)

関連記事一覧

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


      吉島合同事務所
PAGE TOP